大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

那覇地方裁判所 平成9年(行ウ)1号 判決 1997年8月20日

那覇市首里大中町一丁目四一番二号

原告

山岸洋一

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

松浦功

右指定代理人

倉本正博

宮良智

玉栄朋樹

郷間弘司

荒川政明

松田昌

古謝泰宏

主文

一  請求の趣旨第一項記載の請求を棄却する。

二  請求の趣旨第二項ないし第四項記載の各請求に係る訴えをいずれも却下する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、一四五万五三三〇円を支払え。

2  住民税所得割を近似固定額として当年徴収制度に改めるのを妥当とする。

3  固定資産税及び相続税の時価評価制度廃止を妥当とする。

4  被告は可及的速やかに法制審判所を設け法制審判訴訟法を制定せよ。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二事案の概要

本件は、所得税の計算において住民税等納付分を、市・県民税の計算において所得税及び住民税等納付分をそれぞれ所得控除のしないことが条理に反するとして、原告が被告に対し、右課税分の返還請求を求め(請求の趣旨第一項)、住民税所得割を近似固定額として当年徴収制度に改めるのを妥当とする(同第二項)、固定資産税及び相続税の時価評価制度廃止を妥当とする(同第三項)、被告は可及的速やかに法制審判所を設け法制審判訴訟法を制定せよ(同第四項)との各判決を求めるという事案である。

一  原告の主張(請求原因)

1  請求の趣旨第一項

所得税の計算において住民税等納付分を、市・県民税の計算において所得税及び住民税等納付分をそれぞれ所得控除しなければ、納付した税金に重複して所得税等が課されてしまう。税金にさらに税金をかけることは条理に反する。所得税等の金額を所得控除目としていないことには、大蔵大臣に第一義的な責任がある。

大蔵大臣の右過失により、原告は、既に納入済みの税金額について所得控除されずに所得とみなして重複課税された。すなわち、平成五年一月から同年一二月までの間に原告が納付した市・県民税三二五万七六〇〇円及び固定資産税一二万一六五〇円の合計三三七万九二五〇円に対して重複してさらに所得税が課税され、その結果、平成五年分所得税に係わる九五万二一〇〇円の重複課税分が発生した。また、平成六年度市・県民税に係わる重複課税分は五〇万三二三〇円である(以下、平成五年分所得税及び平成六年度市・県民税を総称して「本件課税」という。)。

よって、原告は、被告に対し、不当利得返還請求として、平成五年分所得税に係わる重複課税分九五万二一〇〇円及び平成六年度市・県民税に係わる重複課税分五〇万三二三〇円の合計一四五万五三三〇円の支払を求める。

2  請求の趣旨第二項

住民税の特別徴収の内、次年度徴収制度には、所得の少ないまたは全くない住民に対してその所得を上回る所得税を課税する不条理が認められる。

よって、原告は、請求の趣旨第二項記載の判決を求める。

3  請求の趣旨第三項

固定資産税及び相続税の税額計算において、不動産等の評価額は時価によっている。右制度は、不動産の所在地または課税年月日の相異により、国民間の税負担に著しい不公平をもたらしている。また、含み資産に固定資産税及び相続税を課すことは納税のために財産の売却を迫ることとなり、条理に反する。

よって、原告は、請求の趣旨第三項記載の判決を求める。

4  請求の趣旨第四項

我が国には法律の誤りを訴える法律がない。

よって、原告は、請求の趣旨第四項記載の判決を求める。

二  被告の主張

1  原告の主張1について

原告に対する平成五年分の所得税の課税は、原告が平成六年二月一七日に北那覇税務署長に提出した平成五年分の所得税の確定申告書に基づいてなされたものである。右課税は、法定の期限内にされた原告の申告により適法に税額が確定したものであるから、法律上の原因を欠くものでないことは明らかである。原告が所得税課税が重複課税であると主張する部分について、これが条理に反しないことは明らかであり、原告の主張は失当である。

2  原告の主張2ないし4について

抽象的に法令の効力や解釈の確定を求める訴えは、当事者間の権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争ではないから、「法律上の争訟」ではない。請求の趣旨第二項ないし第四項は、一般的・抽象的に、租税法令の効力や解釈に関する自己の見解の正当性の確認を求め、あるいは、租税法令の制定・改廃を求めるものにほかならないから、裁判所法三条一項にいう「法律上の争訟」には当たらず、このような請求については、明らかに不適法な申立てであるといわざるを得ない。

三  被告の主張に対する原告の反論

原告は、前記一の1ないし3に記載した条理に反する法律のため、納税額に重複課税を受けるとともに、定年退職の翌年に公的年金額を上回る過重なる住民税二七一万二四八〇円の納付を求められた。また、原告は、島根県米子市内に一二〇坪の土地を有し、右土地に係る固定資産税額が一万五八〇〇円であるところ、那覇市内に所有する四〇坪の土地については一二万一六五〇円の固定資産税を賦課されている。よって、原告の請求の趣旨第二項及び第三項が抽象的に所得税法等の効力や解釈の確定を求めている訴えであるとの被告の主張は失当である。

原告は、所得税法、地方税法(固定資産税法を含む。)及び相続税法の各条項を挙げて誤りを指摘し、その条項改正の請求をしている。よって、原告の請求の趣旨第四項は抽象的な法解釈の確定請求にはあたらず、被告の主張は失当である。

四  争点

1  本件課税の法律上の原因の有無(請求の趣旨第一項)

2  本件訴訟の法律上の争訟性(請求の趣旨第二ないし第四項)

第三争点に対する判断

一  争点1

本件課税は所得税法または地方税法の定めるところに従ってなされたものである(弁論の全趣旨)。

原告は、所得税及び住民税等の納税額を課税対象とすることは条理に反し、右納税額に対する課税部分は重複課税として被告が原告に返還すべきである旨主張する。しかし、右納税額を課税対象とすることが条理に反するとはいえず、本件課税が条理に反することを前提とする原告の主張は採用できない。

よって、関係法令に基づいてなされた本件課税には法律上の原因が認められ、原告の主張は理由がない。

二  争点2

原告の請求の趣旨第二項ないし第四項は、いずれも租税法令の効力や解釈に関する自己の見解の正当性の確認を求め、あるいは、租税法令の制定・改廃を求めるものである。右訴えは、前記第二の三の記載の原告の主張を考慮しても、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争ではなく、裁判所法三条にいう「法律上の争訟」に該当せず、司法権の範囲に属しない。

したがって、請求の趣旨第二項ないし第四項は、いずれも不適法な訴えとして却下するのが相当である。

三  結論

よって、請求の趣旨第一項は理由がないので棄却し、請求の趣旨第二項ないし第四項はいずれも不適法な訴えとして却下することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(口頭弁論の終結の日 平成九年六月二五日)

(裁判長裁判官 喜如嘉貢 裁判官 近藤宏子 裁判官 古河謙一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例